日本のミステリードラマで”国民的”と言っても差し支えないレベルで愛されたのは古畑任三郎ぐらいじゃないでしょうか。
あらすじ
テレビ局。颯爽と廊下を歩く加賀美京子こと大野かえで(松嶋菜々子)。派手目なメイク、女優を思わせるような衣装。社交的な彼女はいつも華やかなスポットライトを浴びている。
高級マンションの一室。パソコンの前でキーボードを叩くもみじ(松嶋菜々子=2役)。外出も滅多にせず不器用で、妹のかえでとは大違い。カフェテラス。ダンスの教本を手に座っている男。ご存知・古畑任三郎(田村正和)。
車が止まり、駆け寄るかえで。古畑は、かえでが手がけた連続ドラマの監修として以前からかえでと面識があり、次回作の打ち合わせに来ていたのだった。古畑はかえでの魅力にすっかり虜になっているようだ。
急に姉・もみじに呼び出され、早々に店を去るかえで。戻りを待つ古畑だったが、このときすでに彼女の計画は実行されていたのだった・・・。
GYAOより引用
古畑任三郎というチートおじさんの魅力について
古畑任三郎というキャラは登場人物というよりも狂言回しに近いような存在であり、身も蓋もない言い方をすれば「こいつが出れば終わり」という作中における最強ポジションであります。完璧すぎる推理力とどこか浮世離れした佇まいに惚れ惚れとさせてくれながらも、たまに覗かせる愛嬌のあるおっさんっぷりに僕らはちょびっと萌えを感じるわけですね。
というのは僕の妄想です。まるで古畑任三郎を今まで見てきたかのように書きましたが、実はこのラストダンスが僕が初めて見た古畑任三郎です。多分こうだろうなと思って書いたんですけれども違ってたらごめんなさい。
「ラストダンス」は古畑任三郎を演じた田村正和の追悼の意を込めてTVerで公開されているんですけれども、本来なら狂言回しとしての役割しか持たない古畑任三郎の恋愛模様が描かれていたり、ポンコツっぽい部下の刑事がやたらと頭の回転が速かったりと、敢えてシリーズのお約束を破って作られたような印象を受けました。つまりこれを初古畑任三郎とするにはあまりにも前提が多すぎる気がするわけですが、その割には楽しめました。
様式美に則りながらも革新的な野心作
古畑任三郎シリーズといえば「刑事コロンボ」から影響を受けた倒叙形式のミステリーとして有名ですが、今作は倒叙形式を踏襲しながらも犯人当てとトリック当ても楽しめるようになっているという異例の構成になっています。これも恐らく過去の古畑任三郎シリーズの先入観を逆手に取った演出なんだと思いますが。
作中で使われるトリックは一度でもミステリーを読んだ人ならばピンと来るようなベタなもの。もちろん古畑任三郎シリーズは倒叙形式で作られているのでそのトリックはわかりやすい形で前半に視聴者に明示されます。但し、(恐らくですが)シリーズを今まで楽しんできた人間を騙すための大きな仕掛けがドラマの中に隠されていて、それが明かされる瞬間がこのドラマの最大の見どころです。
まあ、僕はこれが初古畑任三郎で、先入観も特に無かったから普通に仕掛けもわかっちゃったんですけれども……。
とはいえ個人的にミステリーで大事にしているのは構成や伏線の美しさです。犯人なんてメタ的に考えたら大体絞れるモノですから。
今回見たラストダンスは視聴者が後で見返して「なるほど」と言えるようにとても丁寧に作られていたのがだいぶ僕の好みでした。クライマックスの古畑と犯人との対峙は、多くの探偵ものの様式美に則った、論理的でエレガントな追い詰め方をしていて、ここもなかなか好み。
ただ、難点を挙げるとするならば、トリックのためのトリックという感じが拭えず、「この犯人、後先を何も考えてなさすぎだろう」という気もしたのですが、まあその辺はご愛敬ということですかね。ミステリーで重箱の隅を突いていたらキリがありません。
古畑が強そうすぎて負ける気がしなかったのが欠点かも?
ところで、今作は古畑に恋愛をさせるというのがテーマだったようなのですが、古畑のキャラが強すぎて恋愛如きで推理装置としての役割が全くブレるようには見えなかったので、試みとしてはちょっと失敗だったかもしれません。まあ、最強無欠の推理装置たる古畑が女絡みでポンコツになるのなんて誰も見たくないでしょうし、これがキャラの魅力を壊さないギリギリだったのかもしれません。
明石家さんまが犯人役として登場する回が古畑任三郎の中で傑作中の傑作らしいので、これもいつかTVerで見れたら良いんですけれども。
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