古典部シリーズでお馴染み米澤穂信の最新作。同じ青春ミステリーでも古典部シリーズが突飛な設定やキャラクターの記号性が高かったのに対して、今作はそういう要素は控えめでかなり地味目。
ミステリーという不要な描写で説明過多にならざるを得ないジャンルと、過剰ななキャラ付けに頼らずにストーリーを作ろうという今作の姿勢はちょっと食い合わせが悪い気がします。
今作はミステリーにありがちな「探偵役」と「ワトソン役」と別れてるわけではなくて、二人の主人公の両方が「探偵役」でもあり「ワトソン役」でもあんですけれども、キャラ描写の地味さが相まって、会話文でどっちが喋ってるのかよく分からん場面も。
ミステリーとして物凄く面白い話もある反面、悪い意味ですっきりしない話もあって、今のところ僕の評価はそこまで高くないです。これなら古典部シリーズを推すかなあ。
あらすじ
堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!
Amazonより引用
ここからは収録されている各短編の感想です。
913
意味ありげなタイトルと冒頭の描写で、この事件のキーワード自体はあらかた予測は付いたんですけれども、もう一捻りあったのが実に面白かったです。
そこから導き出される結論も意外性抜群で、尚且つ米澤穂信らしい小さな悪意が込められていて「これはとんでもないミステリーを読んでしまったぞ……」という気持ちでいっぱいでした。
ロックオンロッカー
「そんなところからミステリーが始まるのか」という驚きはあったものの、結論自体は想像を超えなかったのが残念。
風情もクソもないことを言ってしまうと出題も解答もそれぞれ一文ずつで終わってしまう話。それを一文で終わらせないように主人公二人の会話の面白さや関係性で魅せようとしてるのは伝わるんだけれども、個人的にはあまり惹きつけられなかったです。
金曜に彼は何をしたのか
タイトルで分かる通りアリバイもの。ラストは米澤穂信らしい鮮やかな苦味が広がる結末となるものの、そこに至るまでの道筋があまり魅力的でなくてやはりそそらなかったです。
ない本
収録作品の中では一番好きです。「探偵役が二人いる」という設定がよく活きていました。本格っぽいトリックと人間性が密接に結びついているのが米澤穂信の醍醐味です。
昔話を聞かせておくれよ
キャラの感じているテンションと読んでいる自分のテンションが一致しなくてなんかなあ、と思いながら読んでました。あまり主人公たちに思い入れを持ってなかったから楽しめなかったです。
友よ知るなかれ
「昔話を聞かせておくれよ」の後日譚。何か釈然としていなかった部分が氷解したのは気持ちよかったけれども、トリック(というより暗号?)が強引すぎて首を傾げていました。トリックのために生み出された設定というのが透けて見えるのは美しくないなあと。
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