電撃大賞受賞作。ラノベらしからぬハードさの1章は面白かったものの、続く2章、3章はそれほど面白かったわけでもなく、惰性で読んでいるだけになってしまった一冊。
あらすじ
すべての『陸』は、水底(みなぞこ)に沈んだ。透き通る蒼い海と、紺碧の空。世界の全てを二つの青が覆う時代、『アフター』。 セイラー服を着て『海の男』として生きるボクは、両親の形見・愛船パラス号で大海を渡り荷物を届ける『メッセンジャー』として暮らしていた。そんなボクに、この大海原は気兼ねなくとびきりの『不運』を与えてくる。 ――『白い嵐』。 無情にも襲いかかる自然の猛威。それは、海に浮かぶ全てを破壊した。 愛船パラス号を失い、ボクが流れ着いたのは孤立無援の浮島。食糧も、水も、衣服も、何も無い。あるのは、ただただ広がる『青』。ここに、助けは来るのか、それとも―― それは、いつ終わるとも分からない。ボクの『生きるための戦い』。
Amazonより引用
表紙と電撃ブランドに騙されたオタクを一網打尽にする第1章
表紙こそNHKアニメ的萌えキャラみたいな見た目をしている主人公が元気に飛び跳ねていますが、1章は表紙のイラストと電撃ブランドに騙されたオタクを干からびさせる勢いの本格派ハードサバイバルが展開されます。
多少の読みにくさはあるものの、「生きること」というストレートかつ難しいテーマに真正面からぶつかっているのが良かったです。こんな可愛い女の子が漂着した先で魚の生臭い血液で喉を潤すシーンはまあまあ衝撃度高かったですねー。いやー、やっぱりエンターテイメントの主人公はひどい目にあってナンボですよ。
これはちょっとしたネタバレになるんですけれども、表紙でマスコットみたいな面しているカエルはサバイバルに耐え切れなくて途中で死にます。具体的にどういう死に方をするかは本を読んでもらいたいのですが。
小説力の高さは伝わるものの……
ところが続きの章からは何だか独特の用語の連続で更に読みにくくなります。一番の魅力だったハードな死生観も薄れてしまってなんだかなあという感じ。
反面、クライマックスの展開はAmazonレビューでは「ご都合主義」と叩かれていたものの、僕は良かったと思います。
非力な主人公が突然無双する展開は確かに読者サービスが過ぎる気もしますが、本質的には主人公が初めて「父母と同じ生き方を選べた」という象徴的なシーンであり、冒頭から示されていた主人公の「男性恐怖症」も解決していて、良い構成だなあと思いました。
電撃大賞という権威ある賞に相応しい作品化というとちょい疑問符が付くのですが、海洋ロマン+ラノベ+ラノベの枠に収まりきるレベルのハードさという3つの要素を組み合わせて破綻なく物語を作れる時点で実力が高いのは分かり切ってるので、これは成長性を見込んだ先行投資って感じですかねえ。
実際、この本を買ったきっかけは地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- という同じ作者の書いたラノベが生涯で読んだ小説のベスト10に入りそうなぐらい面白かったからなんで、選考委員の目は間違ってなかったわけですが。
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