カミヅキ記録帳

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【読書】孤島×館×天使x殺人事件。手堅い出来だが、この作者ならもっと面白く出来た気も?(楽園とは探偵の不在なり/斜線堂有紀)

2021年のこのミス第6位の本です。

楽園とは探偵の不在なり

 

【目次】

 

あらすじ

二人以上殺した者は"天使"によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦(あおぎしこがれ)は「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱(つねきおうがい)に誘われ、天使が集まる常世島(とこよじま)を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。かつて無慈悲な喪失を経験した青岸は、過去にとらわれつつ調査を始めるが、そんな彼を嘲笑うかのように事件は続く。犯人はなぜ、そしてどのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。最注目の新鋭による、孤島×館の本格ミステリ。

 

Amazonより引用

 

手堅いミステリーを上手に味付けした佳作

ミステリーといえば一般的には「消えた死体」や「密室」ですが、昨今ではそれにSF要素を付け足した特殊設定ミステリーというものが流行り始めているそうで。今回紹介する「楽園とは探偵の不在なり」は天使の降臨によって2人以上の殺人を禁じられた世界で、起こるはずのない連続殺人の謎を追う話です。

使われたトリック自体は地味でオーソドックス。よく言うと手堅い、悪く言うと凡庸で意外性無しです。しかし、そこに「2人以上殺した天使が地獄に連れて行ってしまう」という特殊設定が話に新鮮さを吹き込んでいます。

この小説はミステリー的な部分が面白いのは勿論なんですけれども、「二人以上の殺人をした者は地獄行き」というルール下の社会はどのように変革していくか(たとえば、この世界では二人以上殺せないので死刑制度は廃止になった)という作者の思考実験的な部分もなかなか面白いんですよね。このSF的な仕掛けを面白がれるかどうかで評価が別れそうです。

また、この小説は本格ミステリーであると同時に、天使によって居場所を無くした名探偵・青岸焦(あおぎしこがれ)の再生の物語でもあります。探偵が不要となってしまった世界で青岸が名探偵の役割をどのように見出していくのかというのもストーリーの肝となっています。

 

もう少し作者の良さが出せる題材はあったのでは?

但し、全体的に文章のスマートさが足りなくて説明過剰気味。そこまでセリフで言わなくても良いんじゃない?そこまで説明しなくても良いんじゃない?という箇所が結構多くて、その積み重ねでテンポが悪くなってしまってます。

また、主人公も含めて全ての登場人物がどこかから借りてきたようで、人としての厚みが薄かった印象。「こんなところにいられるか!!」と言って部屋に閉じこもるキャラクターを令和になって見かけるとは思いませんでしたね……。

探偵役の回想に登場するキャラも冗談みたいな善人で、なんだか感情移入がしにくい。何というかキャラが全体的に芝居がかりすぎているような気がしました。

斜線堂有紀は少年少女の瑞々しくもえげつない心の動きを描写するのが得意な人だとは思うんですけれども、今回の主人公は良い歳したハードボイルドな探偵だったのが悪いのかいまいちピンと来ませんでした。

話の最後には斜線堂有紀らしいエモさもあるし、使われたトリックには満足行ってるんですけれども、孤島x館みたいないかにもなミステリー設定にするよりも、もっとこの作者なら自分の強みを活かせるキャラ設定や舞台設定で勝負出来たのじゃないかと思います。次作ではもっと斜線堂さんらしいミステリーを読みたいです。

 

 

 

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